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ニューオーリンズ:
被災地の今




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文=アーネスト・J・ゲインズ 写真=デビッド・バーネット

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米国西部は2005年、大型ハリケーンに相次いで襲われた。被災者300万人を超す大災害の傷跡は深く、復興に向けた懸命の努力が今も続く。

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 ニューオーリンズは立ち直る。
 観光客を乗せたタクシーやバスやリムジンが、ホテルやカジノを出て、てきぱきと車の流れに乗り、ルイ・アームストロング国際空港へ向かう。車は、家々やオフィス、スーパーマーケットがかつて立ち並んだ通りを行くだろう。今はみな失われて、瓦礫の山ばかりだけれど。

 いずれ、タクシーやバスやリムジンは、ルイ・アームストロング国際空港から裕福な観光客を乗せて、ハリケーン「カトリーナ」が残した瓦礫の街並を通りすぎ、ホテルやカジノへ向かうようになるだろう。
 そう、ニューオーリンズは立ち直る。
 人々が残した瓦礫も、やがては通りから片付けられる。タクシーやリムジンに乗った人たちが、窓から通りを眺めても、ハリケーンのことなど思い出しもしなくなる。そう、壊れてしまった家や家具、衣類、おもちゃ、なにもかもが片付けられれば、ニューオーリンズはよみがえるだろう。
 古くなった歩道や路面のでこぼこが補修される。ブルドーザーが黒人居住区ナインス・ワードの家々を押しつぶし、そこで暮らしていた人々の記憶もすっかり片付けられるだろう。セント・チャールズ通りには再び路面電車が走り、観光客がどこへでも安心して出かけられるようになる。
 そして、ニューオーリンズは復興するのだろう。

 いつの日かまた、ロイヤル通りをぶらつきながら骨董店をひやかし、何も買わなくても贅沢な気分を味わえるようになる。カフェ・デュ・モンドに立ち寄って、ベニエ(果物や肉を詰めたペストリー)とカフェオレを注文できるようにもなるだろう。
 通りではミュージシャンの演奏も聴けるはずだ。演奏している顔ぶれはカトリーナに襲われる前と変わっているかもしれないが、それでも通りは再び音楽で満ちあふれることになる。
 そう、ニューオーリンズはよみがえる。
 街のどこを再建し、どこを新たに開発するか、政治家たちが議論を尽くしさえすれば、きっとよみがえる。あちこちで市民集会が開かれ、住民が政治家に怒りをぶつける場面もあるだろう。それでも、もめた挙げ句に、ニューオーリンズは再建されるだろう。
 心配するのはよそう。ニューオーリンズは、消えてなくなるわけではない。そう思いはするものの、数ある喪失の物語を思うと、ふと疑念が頭をよぎる。

 たとえばジョセフ姉妹(架空の話だから、ここではそう呼ぼう)の物語。二人は、毎週日曜になると、糊の利いた白いワンピースに白い帽子、白い手袋をつけ、3キロほどの道のりを歩いて教会へ通った。午前9時の礼拝に参列するためだ。姉妹は家に戻ると、普段着に着替えて玄関のポーチに座る。
 そんな姉妹の日常を、カトリーナがすべて変えてしまった。高さ2メートルもの濁流が家を襲い、姉は溺れ死んだ。妹は救助されたものの、この街から姿を消した。ヒューストンに行ったという噂もあれば、デトロイトとかアトランタだという人もいる。確かなことは誰も知らない。

 あるいはこんな話。ニューオーリンズの有名な祭り、マルディグラの日に、一人の男がキャナル通りを行く山車を眺めていた。周りには何千もの人がいたが、男が覚えているのは一人の小さな男の子の声だ。
 男の子は、山車に向かって叫んでいた。「何か投げて。おじさん、僕に何か投げてよ」。何万という声が行き交っていたが、男が覚えているのはその子の声だけだ。山車に乗った人たちは、コインやビーズ飾り、プラスチック製のラッパや笛を投げるが、男の子よりも先に誰かに取られてしまう。
 そのうち山車を眺めていた男は、運よく赤いラッパをキャッチした。男の子にあげようと思って振り返ったが、その子の姿はなかった。
 「あの子は?」と、男は思った。どこに行ったのだろう。せっかく宝物をあげようと思ったのに、どうして行ってしまったのだろう。
 その時、背後で別の声がした。女性の声だった。「その赤いラッパ、お持ちになりますか。娘にやるビーズ飾りはあるんですが、息子には何もなくて。そのラッパをいただけたら、あの子きっと大喜びしますわ」

 それはカトリーナが街を襲う何年も前の出来事だった。ハリケーンから 2カ月後、男は通りを車で走りながら、ふと道ばたに目をやった。瓦礫の中に赤いラッパをみつけた。男は思った。もしかしたら、自分があの女性にあげたラッパではないかと。いや、そんなはずはない。あれから、マルディグラの祭りでは数えきれないほど多くのラッパが投げられたんだから。
 そう自分に言い聞かせても、男はやはり気になった。あの女性はどうなったのだろう。彼女の子供たちは生きているだろうか。それとも……。
 これは架空の物語だが、同じような話は実際にいくらでもある。

 ニューオーリンズ。おまえはきっと立ち直る。
 だが、それは私の知るニューオーリンズなのか。あの小さな男の子や女性、ジョセフ姉妹の暮らした街なのか。そうではあるまい。カトリーナ、そして復興計画を立案した政治家は、ニューオーリンズを永遠に変えてしまった。

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特集関連の豆知識

 ハリケーン「カトリーナ」の襲来で住民に避難勧告が出されたとき、多くの人々はペットと一緒に自宅に残るか、それともペットを置いて避難所へ行くかという大きな選択を迫られた。こうした政府の方針によって、避難用バスに乗り込む前に、腕に抱いていた犬を取り上げられる子どもたちさえいた。ペットとともに自宅に残った人々は命の危険にさらされ、ハリケーンが去った後の救助を待つほかなかった。被災地では置き去りにされた動物たちがさまよい歩き、健康と安全面での危険性も高まった。
 2005年のハリケーン災害の後、米国では大規模な動物救出作戦が始まり、数千という動物が救助され、安全な施設に送られた。この作戦には多くの動物救援グループやボランティアたちが参加した。ルイジアナ州やミシシッピ州周辺の施設は満杯になってしまったため、被災動物たちは、ニューヨーク州北部にいたるまで、国中のあちこちの施設に送られ、新しい家庭に引き取られた。また一部の施設は、ペットが飼い主と再会できるよう、救出した動物をホームページで紹介した。不幸なことに、救助が間に合わないケースも多く、嵐とそれに続く洪水で命を落としたペットも少なくなかった。
 こうした状況を受けて、立法府が立ち上がった。緊急避難のときに動物を救えるようにと、「ペットの避難・輸送基準(PETS)法案」が提出されたのだ。避難計画に、飼い主に連れられたペットや介助動物も組み込んだ州や自治体に限り、連邦緊急事態管理局(FEMA)を通じて資金援助を行うという内容である。米国動物愛護協会や全米人道協会をはじめとする全米の動物保護団体が、この法案の成立をめざして議会に陳情しようと人々に呼びかけている。緊急事態といえど、いかなるペットも見捨てられるべきではないというのが彼らの主張だ。災害で何もかもを失った人々にとって、ペットを失うストレスは、精神面でさらなる大きな打撃となりかねない。またこの法案が通れば、ペットを理由に避難を拒否する必要がなくなり、より多くの人を助けることができるだろう。
 現在のところ、赤十字社は避難所へのペットの持ち込みを禁止している。公衆衛生と安全の理由に加えて、人によっては動物が嫌いだったり、アレルギーを持っているからだ。それでも昨年9月にハリケーン「リタ」がメキシコ湾岸を襲ったときには、例外的な措置がとられた。テキサス州のガルベストンでは多くの人がペットを連れて避難用バスに乗り込み、避難所に入った。「リタ」に備えて避難したのは、町の90%近くにのぼる。全世帯の半分以上の家庭がペットを飼っている米国において、こうした法律は動物の命ばかりでなく、動物を愛する人々を救ううえで、大きく役立つことになるだろう。

――エミリー・マクダウェル

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関連リンク

ハリケーンと巨大嵐の被害に関する研究:合衆国地質調査部が2005年の主なハリケーン被害に関する情報を提供している。
http://coastal.er.usgs.gov/hurricanes

ミシシッピ州・ハリケーン・カトリーナ:ハリケーン「カトリーナ」後のミシシッピ州の復旧状況について、連邦緊急事態管理局(FEMA)が詳細な最新情報を紹介。
http://www.fema.gov/news/event.fema?id=4807

ルイジアナ州・ハリケーン・カトリーナ:「カトリーナ」後のルイジアナ州の復旧状況について、FEMAが詳細な最新情報を紹介。
http://www.fema.gov/news/event/fema?id=4808

国立海洋大気局ハリケーン・センター 2005アトランティック・ハリケーン・シーズン: 2005年アトランティック・ハリケーン・シーズンの概要を掲載している、国立ハリケーン・センターのサイト。ハリケーン「カトリーナ」、「リタ」、「ウィルマ」の情報も含む。
http://www.nhc.noaa.gov/2005atlan.shtml





日本版の過去記事

2004年10月号「海に沈む 米国の大湿地帯」


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